CAMRとは? (田上幸生)

医療的リハビリテーションのための状況的アプローチCAMRという治療概念は、理学療法士の西尾幸敏によりシステム論をベースにして構築されました。クライエントが状況に応じてより適応的に運動を変化させ、運動課題達成をより容易に成し遂げられるように準備をするアプローチです。
運動問題に対する多様な解決手段を身につけることを目標として、運動リソースの豊富化と運動スキルの多彩化による運動パフォーマンスの改善を主な手段としています。利用者を取り巻く様々な状況を変化させながら、より良い状況を創り出していく「状況変化の技法」とも言えます。

ここでは、CAMRを理解する上で特に重要だと思われる項目を三つに絞って取り上げて簡単に説明し、その三項目を踏まえて、後臨床介入への示唆について少し触れておきます。
1. 状況一体性
2.人は生まれながらの運動問題解決者
3.運動障害の捉え方
4.臨床介入への示唆

1.状況一体性
人の運動は常に状況の中で生まれ、状況によって形作られます。そして、状況により変化した運動は、しばしば状況の変化を引き起こします。人の運動は常に状況と一体であるわけです。このような人の運動システムの性質を、私たちは「状況一体性」と呼んでいます。
日常場面を見てみましょう。明るい自宅内にいるとき、あなたはリラックスして歩くでしょう。しかし真っ暗だったなら、身体を硬くして、足先で床を探るようにゆっくり歩くことでしょう。よく晴れた冬の早朝、心地よい朝日を浴びながら胸を張って颯爽と歩いていると、凍結した路面に出くわしました。あなたは目線と腰を少し落として、やや前かがみで小刻みに歩き始めることでしょう。
これらの例では、状況に応じた適応的な運動変化によって衝突や転倒などのリスクが未然に防がれ、安全な生活状況が生み出されています。このように、僕たちの日常生活の状況は無限の変化に富んでおり、僕たちの運動もまたそれにつれて無限に変化し、より良い状況を創り出しているのです。

2.人は生まれながらの運動問題解決者
無限の状況変化は、言い換えれば、常に僕たちに「適応的に運動を変化させなさい」と運動問題を突き付けているわけです。しかし、僕たちは通常いとも簡単にこの問題を解決しています。問題として意識さえされない程、造作なく、あっさりと。
この問題解決の過程は、僕たちが誕生した瞬間から始まっています。僕たちは誰に教わるでもなく、重力に逆らって動き出し、歩き始めました。僕たちの生活の歴史は、運動問題解決の歴史という面も持っているのです。
このことから、人は生まれながらの運動問題解決者だと考えられます。僕たちはみんな、自律的で有能な、生まれながらの運動問題解決者なのです。

3.運動障害の捉え方
僕たちが日常的な運動場面において困ることはほとんどありません。この高度な運動問題解決能力の鍵はどこにあるのでしょうか。色々な説明ができると思われますが、私たちは主に運動リソースと運動スキルに着目して考えています。
運動リソースとは、運動課題を達成するために利用可能な資源のことです。身体の柔軟性、筋力、持久力などの身体リソースと、環境内で利用できる物や介助者といった環境リソースなどがあります。僕たちには、日常生活を送るには十分すぎてあり余るほどの運動リソースが備わっています。この豊富な運動リソースが、様々な状況変化に対応するための基礎となります。
運動スキルとは、運動リソースを利用して運動課題を達成するような身体の使い方のことです。運動リソースが豊富になればなるほど、運動スキルはより多彩に発達することができ、より状況変化に対応しやすくなります。
一方、例えば脳卒中後には筋力が低下し、やがて筋緊張が高まって柔軟性が低下し、活動量も減って持久力も低下してきます。健康な時に用いていた運動スキルは役に立たなくなって、環境利用もままならなくなってしまいます。運動障害とはすなわち、運動リソースの豊富さや運動スキルの多彩さが失われることだと考えられます。

4.臨床介入への示唆
(1)正常運動について
一般的なリハビリテーションの臨床現場では、よく「正常運動」という言葉が使われていますが、これは実質的には健常者の運動の形といった意味合いで用いられています。そしてその形をモデルとして、なるべく逸脱しないようにセラピストの管理下で動作訓練が行われることも多いと思います。しかし、健常者の運動の形ばかりを追い求めることには、二つの点で注意が必要だと思われます。
一つは、状況一体性という性質を考慮する必要があるということです。僕たちの日常生活の状況は無限の変化に富んでおり、僕たちの運動もまたそれにつれて適応的に無限に変化します。つまり人の運動システムは、形ではなく機能を維持するシステムなのです
例えば歩行で考えると、状況変化に応じて形などはいかように変えてでも、安全で効率的な移動という機能を維持しようとするのが人の運動システムの特徴です。したがって、正常歩行と呼ばれる、健常者において標準的な一つの歩行の形だけを真似しても、健常者の歩行にはあまり近づけないということになります。
もう一つは、そもそも健常者の運動の形をモデルとすることが妥当なのかどうか検討する必要があるということです。例えば、脳性麻痺で脳に損傷があったり脳の発育が障害されていて、そもそも健常者と同じ形で運動することが困難なこともあるはずです。そんな場合でも、健常者の運動の形をモデルとしなければならないのでしょうか。それが妥当だという根拠があるのでしょうか。その人に独特の運動のやり方を認めてはいけないのでしょうか。クライエントの状態に応じた柔軟な対応が必要だと思われます。
(2)クライエントとセラピストの関係について
一般的な臨床場面ではクライエントは圧倒的な受け身的な立場に置かれます。特に急性期に近いほど、その傾向は強くなるようです。多くの場合はセラピストにより選択された評価がセラピスト主導で進められ、セラピストの作成したプログラムがセラピスト主導で実施されていきます。クライエントが自由に動こうとすると、代償運動だとして禁止されてしまうこともあります。クライエントが自律性を発揮する機会はあまりなく、クライエントとセラピストの関係は、管理される側と管理する側に分かれがちです。
しかしながら、人は生まれながらの運動問題解決者なのです。正しい運動のやり方を誰かに教えてもらうのではありません。人は課題によって運動を創っていくのです。それならば、クライエントが自律的で有能な問題解決者として振る舞えるように支援することがセラピストの役割になるはずです。あくまでも主役はクライエントです。クライエントとセラピストの関係は、異なった立場から同じ目標を達成しようとする協同関係が望ましいと思われます。  

  従来のリハビリアプローチと比べて表1のような違いがあります。    

  従来的なアプローチ CAMR
運動システムとは? 運動システムは、皮膚に囲まれた身体のみ、と捉える。 状況一体性: 運動システムは身体だけでなく、その場その場の達成するべき運動課題に応じて、自然環境や人工環境、社会的な環境などが一体となったもの。
解決方法 基本的に特定の原因を求めて、その原因にアプローチする。不可能の場合は残存機能の利用、環境調整を行う。 特定の原因とアプローチの対象を定めず、環境調整を含めた全体の運動余力を豊富にして運動パフォーマンスをアップさせる。
①コントロール可能な運動リソースを探索・発見
②運動リソースを豊富にし、運動スキルを多彩にする
  →柔軟性は上田法で
  →もし可能なら痛みの緩和
  →クライエントの希望に沿った運動課題
  →希望を叶えるのに効果的であれば環境調整も積極的に
③環境調整も含め全体の運動余力を豊富にすることが目標となる
アプローチの選択 疾患毎・障害毎の特徴によってアプローチの考え方を変える。(成型疾患と脳性運動障害ではアプローチが異なる) 人の運動システムの性質を基にしている。どんな障害でも基本的なアプローチの考え方は変わらない。障害毎の配慮が加わる。
正しい運動とは? 正しい運動の形、間違った運動の形(異常運動・代償運動)がある。 「人は生まれながらの運動問題解決者」として捉えるため、間違った運動も正しい運動もないと考える。その場その場で課題達成のために「できる」運動を行っている、と捉える。また独特な運動や姿勢の形は、否定するのではなく基本的に受け入れていく。
何を学習するのか? 特定の運動パターン(正しい運動)を学習する。 運動パターンは状況に応じてクライエントが生み出すもの。
機能を維持するために、運動の形は状況に応じて変化するもの。一つの運動の形(パターン)を反復練習して、常に同じ運動の形を再現しようとすることには意味が無く、状況に応じて形を変えてでも機能を維持する練習が必要。

CAMRが従来のアプローチに取って代わる物とも思っておりません。しかしこれまでと違う視点のアプローチを身につけることは、解決手段の選択肢を増やし、セラピストとしての幅を広げることになると思います。クライエントの状況に合わせて、一番相応しい方法をとれば良い訳です。

CAMRの簡単説明です。今なお発展中です。内容は将来変わるかも知れません。